大学卒業後から某会社に入社、現在も勤務中。元来の性格は几帳面で生真面目で小心。
40歳になってから部下を持つ係長に出世。大きなプロジェクトリーダーになるが、上司として部下を適切に指導できず、うつ気分・疲労感・起床困難が顕著になり、うつ状態に陥り労務不能となった。当院受診後、マレイン酸トリミプラミンと塩酸マプロチリンの効果により症状は改善し、2カ月間の休養で職場復帰が可能となった。復帰前に行われた上司との話し合いによる環境調整が、症状の改善と職場への適応に顕著な効果をもたらした。
1年後再びうつが再熱したが、前回のうつの治療経験から、すぐに上司との話し合いの機会をもった結果、以前勤務していた怖い上司のいない職場への移動が決まった。今回も適切な環境調整が、恐怖心から職場の不適応に多大な成果をあたえてくれた。5年経った現在も、“職場のみんなが気を遣ってくれて、仕事が楽しい”と語っている。
過重な仕事が与えられても、“限界を超えている”と上司や同僚に訴えるのが苦手で、自分1人で解決しようとし、疲れ果てて消耗しきってうつ病に陥ってしまう。燃え尽きうつ病型性格傾向が顕著に認められた。今回も前回も、治療者と上司の話し合いによる環境調整で、患者の居場所が復活し、早期の職場復帰が可能となった。環境調整の重要性を痛感させられた。塩酸マプロチリンとフルニトラゼパムにより、前回も今回も顕著な効果が得られた。三環系や四環系抗うつ剤でないと治らないうつ病も多い印象がある。
急な呼吸困難、動悸、頻脈、手足の冷感、発汗などを主症状とする。
ある日突然予期しない時に生じるので、患者さんはパニック発作に強い恐怖感を抱きやすい。
発作の起きる場所や時間が決まつてる場合と、全く関係ないケースも多い。また発作の誘因となるストレスが関係する場合と、そうでない場合がある。主治医との信頼感の構築が症状の改善に欠かせない。
中学3年から不登校。高校もほとんど行けず。社会にも出たことはない。中学3年から信じていた友達からも、からかわれるようになり、学校に行きたくなくなる。同じことから、テレビゲームに深夜まで浸るようになり、生活が乱れ始め昼夜逆転し、引きこもりに陥ることになった。
自己愛的で共感性の欠如した祖母と父親、自己主張のできない弱い母親、統合失調症の弟の看病。
不眠にはラメルテオンが有効。眼痛にはシアノコバラミン、頻尿にはミラベクロンが有効であった。
カウンセリングは3週間に1回60分で開始。面接では、一番嫌悪し恐れている父親に焦点を合わせ、その人となり、問題点、生育の家庭について語り合った。3週間に1回の面接でも、2年が過ぎたあたりから自我の成長が見られ家族を客観視し始め、4年過ぎた頃より軽いバイトが出来つつある。
性格は真面目、几帳面、優柔不断
簿記専門学校を卒業後、某建設会社の経理部に入社。しかし、会社の上層部の不正行為に悩み始める。これに並行して便通異常、不眠、うつ気分が増悪して行った。会社を退社後、症状は大幅に減少した。
下痢型の場合、下痢止めに鎮座剤を加えると有効的な時もある。
父は公務員。母親が極めて口うるさい。弟は几帳面、生真面目、偏屈で暴力的。やがて弟が父に家庭内暴力を繰り返し始め、母親から毎日“助けてくれ”と電話が入るようになる。以来電話の音が怖くなると同時に、職場の水道栓を何度も点検せぎるを得なくなり、退社に1時間もかかるようになった。
パロキセチンで強迫症状は徐々に軽減して行った。しかしパロキセチンだけでは強迫の改善が十分でなく、イミプラミンに変更すると強迫症状は徐々に改善し始め、水道栓の確認は二回で終えることができ、職場にも良く適応できて欠勤もなくなった。
環境面でも良い介護施設が見つかった事が大きかった。母親の我儘のため介護施設からの苦情が激減して、精神的負担から解放されたことも改善を後押ししてくれた。さらに周囲を巻き込み暴力的言動を繰り返していた弟も、母親が変化するのと並行して、どんどん温和で協力的になり兄を励ましてくれるほどに症状が改善していった。
強迫症状に対して、パロキセチンやフルボキサミンやミルタザピンなどは無効であった。一方イミプラミンは副作用もなく顕著な効果を示したことは、三環系の抗うつ剤の有用性が依然として重要であることを示している。
またこのケースの強迫性障害の発症は、自己愛性人格障害の母親の長年の看病と、暴力的言動を家族に繰り返す弟への対応等による疲労困憊に起因していると思われる。
小さい頃からあまり自己主張のしない子だった。周囲を気にし見栄を張る所があった。21歳頃から過食と嘔吐が始まる。入社後、顧客との対応ミスが重なり、さらに資格試験の不合格が契機となり、過食と嘔吐が始まり、肥満恐怖も加わり初診となった。短時間に大量の食べ物を食べつくす過食と、自ら誘発する嘔吐、肥満への病的な恐れなどが顕著な神経性大食症。
本人が投薬を嫌がっていたので、精神療法だけで治療を開始した。以後の精神療法の治療経過を前期、後期の2期に分けて述べる。
前期の初期面接では、「太るのが怖い。父に(嘔吐)“蛇の真似してだすようなもの”と言われ腹が立つ。ちっとも分かってないのに分かったように言う、やり込めるとオレは出ていきたいなんて言い出す」父との病的共生関係を語った。一方、母については「口うるさい。何かしたいと思っても母の干渉でできない。でも母には嫌われたくない」と分離不安・幼児性が語られた。
後期に入ると恋人探しの話題に集中し、過食の訴えは激減して行った。その後も失恋を繰り返したが、男性遍歴は自我の成長につながり、行く行くは過食症も克服できるだろうと励まし続けた。
一方、失職を繰り返し落ち込んでいた際に、準看護師を勧めてみると、すぐに自ら準看護師学校を訪問し入学となった。入学後は授業内容が非常に面白く、熱心に勉強を始めた。成績は優秀で、見事卒業し、病院に勤め始めた。一方。恋愛の方は、これまでは知らない間に父親に似た男性ばかりを選んでいて失恋を繰り返していたことに気付いていった。出会い系サイトで知り合った8歳下の男性と急速に恋に陥り結婚となった。
過食症の治療では薬物治療だけで回復するケースは極めて少なく、精神療法を通して自我機能の回復と成長を目指す治療法の方が有効なことが多い。この症例でも治療者に理想化転移をして、直面化や解釈を素直に受け入れて成長し寛解に向かったと思われる。
両親との関係も、恋人との仲も良好。思い当たるストレスは、年上の上司にすごく気を使ったくらい。朝起きると、しばらくしてふらつき、フワフワ感を感じ、寝床に付くまで日中ず―と続く。耳鼻科を受診し精密検査しても異常は見当たらない。めまいに効く薬も全く効果がない。脳外科や神経内科でCTやMRIを受けても異常は見当たらない。
仮面うつ病を疑い、イミプラミンとエチゾラムで治療開始。エチゾラムが著効を示し、これを飲んでいれば、フワフワは感じないという。いわゆる典型的な狭義の心身症(身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害がみとめられる病態をいう)と思われる。